研究活動・親睦

各地の声・各地のイベント

各地のイベントから(会報167号から)-埼玉詩祭、横浜詩人会、青森県詩人連盟

各地のイベントから(会報167号)

2022 埼玉詩祭」
    埼玉詩人会会長 川中子義勝

岩本拓郎氏と川中子義勝会長の談話講演

岩本拓郎氏と川中子義勝会長の談話講演


 コロナウィルス蔓延を受けた自粛期間を経て、三年ぶりに埼玉詩人会主催「2022埼玉詩祭」が五月二十九日、さいたま文学館(桶川)で開催された。
 第一部では埼玉詩人賞の贈呈式が行われた。詩集『十六歳、未明の接岸』で、第二十八回埼玉詩人賞を受賞した松井ひろか氏に賞状と副賞が贈呈された。松井氏は、困難な青年時代ののち「長谷川龍生氏の詩塾で永年勉強をした。地元の埼玉で受賞できてとても嬉しい。これからも精進したい」と語り、受賞詩集から三編を朗読した。
 第二部は、2021年度「MYポエムコンクール」で埼玉県知事賞を受賞した秀明高校三年・谷口りずさんとさいたま市立美園南中学校三年・中村智咲さんが受賞作を朗読した。二人とも作品には「世界」への真摯な眼差しが窺われ、これからも言葉をゆたかに育んでいってほしいと願われた。
 第三部では、詩祭のテーマ「世界と響き合うことば・アートと詩」を巡って画家岩本拓郎氏の講演、及び川中子義勝との対談講演が行われた。岩本氏は谷川俊太郎氏との交流をふまえ、谷川氏の詩を引用しつつ「絵画も詩も、絵具や言葉を媒介手段として表現するが、それによって現実の奥にあるもの、生そのもののリアリティを表わそうとする」と語った。これに応えて対談では、詩(ポエジー)は、見る聞く他の五感が一つになった「共通感覚」として兆すもので、絵画も詩もその「世界の根源のことば」に響き合うものと語られた。壇上には岩本氏の絵画作品が並べられ、氏の目指す、音楽のように色と形の交響する世界を、聴衆も実感として窺うことができた。
 最後に絵画と詩と音楽のコラボという趣向で、岩本氏のギターと歌、また中村裕子氏のヴァイオリンでシャンソンのライブ演奏が行われた。「百万本のバラ」の違う訳での歌い分けや、チャルダーシュを奏する伎倆に魅せられつつ、詩祭は締めくくられた。
 三年ぶりの詩祭は、久しぶりに詩や芸術の意義を想う良い機会となった。多くの参加者から、充実した時を得たという感想が寄せられた。


横浜詩人会・現代詩イベント
 「いま、人生に詩を―
『横浜詩人会詩集2021』を読む」
     横浜詩人会理事 三浦志郎

座談会(左から)佐相憲一、柴田千晶、光冨幾耶、藤森重紀の各氏

座談会(左から)佐相憲一、柴田千晶、光冨幾耶、藤森重紀の各氏


 2022年6月18日、主催・横浜詩人会、後援・日本現代詩人会および日本詩人クラブで、ラゾーナ川崎プラザソルにて開催された。昨年13年ぶりに刊行され、101名が執筆した『横浜詩人会詩集2021』を記念しベースとした、講演と朗読である。
 総合司会・池田高明理事のもと、植木肖太郎理事長の開会の言葉に続いて、来賓として日本現代詩人会・佐川亜紀理事長、日本詩人クラブ・吉田義昭理事長、書の友好団体「書燈社」・宮本博志理事長より、来賓ご挨拶を頂いた。
 第一部は座談会。パネラーの柴田千晶、藤森重紀、光冨幾耶の三氏によりアンソロジー収録作品のエッセンスが浮き彫りにされ、詩と人生の関わりや自己の詩との向き合い方、自作の解説まで、話は多岐に及び、それぞれの個性を感じさせる大変興味深いものになった。
 さらにコーディネーター佐相憲一会長が座談に加わり、失われたものの刻印や表現の多様性、切実なものを書くことなど、四氏の話は広がりを見せた。コロナ禍以来、詩についての本格的な講演は久しぶりの知的味わいとなった。
第二部では、服部剛理事の司会により、アンソロジー収録作品を10名の作者が丁寧に多彩に朗読した。新沢まや、井嶋りゅう、今鹿仙、うめだけんさく、長田典子、草野早苗、田村くみこ、中村不二夫、松浦成友、若尾儀武の皆さんである。ベテラン、中堅、新鋭、とバランスよく配されたそれぞれの立場、スタイル、アプローチは、詩という究極に至るに相通じるものがあり、個性が発揮される場であった。文字が音声に変換される時間と空間に音楽と物語性が立ち上がって来る気がした。
 会場はコロナ下で間隔があるとはいえ、会内外の来客で、用意した机のほぼ満席の盛況となった。堅苦しさはなく、むしろ寛いで柔らかなものとなり、知的楽しみといった雰囲気が感じられた。詩とは孤独な作業だが、この場は人々によって、ひとつの詩状況が作られたと言える。それを象徴するように締めくくりは、佐相会長によって来場客にもマイクが向けられ、和やかな各自スピーチのうちに散会となった。

現代詩の継承

若い世代と手をたずさえて~青森の場合 藤田晴央

朗読する 工藤莉里さん

朗読する 工藤莉里さん


 青森県詩人連盟では、若い世代と〈詩〉を共有しようと二つの角度からの実践を試みている。一つは時間と空間の共有、今一つは紙上の共有である。
 私たちは毎年11月に「青森の詩祭」を開催しているが、これまではどうも会員向けの内向きな催しという観をぬぐえなかった。そこで2018年度から高校生の参加をつのった。詩文芸に熱心な学校に協力を依頼。幸い初年度から高校生数人の参加を得て「詩祭」において自作詩の朗読をしてもらった。本人が来場できない場合でも作品参加という扱いで、文芸部顧問の先生に朗読していただいた。当日のプログラムに高校生たちの詩を掲載。これにより、これまで(ほぼ)高齢層の会員だけだった場に一気に若い感性が展開されることとなった。
 思えば、私が詩に目覚めたのも十代後半であった。彼らの詩を読み、耳を傾けることはどんなにか忘れかけているものを思い出させることであろう。高校生たちにとっても、学校の外で詩の世界に接することは良い経験になったのではないだろうか。この企画は昨秋も実施され。青森市の公共施設ホールの大スクリーンに生徒たちの詩を映しだして朗読してもらい、来場者から「高校生の詩がよかった」という感想が多数もたらされた。
 一方、私たちは毎年『青森県詩集』を発行しており、これにも若い人の参加を呼びかけている。昨年からあえてその方が参加しやすいだろうという判断で「学生作品」と章立てしたページを設けた。参加費も学生料金を設定。その結果、三人の大学生の参加が得られ一人は会員にもなった。  
 大学一年生の岩下塁さんの詩「マトリョーシカ」の一部を紹介する。「マトリョーシカって知ってるかい/人形の中に人形が入っているロシアのおもちゃ/今の君と似ているね/君は今/何層もの殻にとじこもっている/でも大丈夫/いつかその殻を破れる日が来るから/今は光がない君の中の町も/きっと光がみえる日がやってくる」。

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